英語の勉強メモ

英文中で出会った表現のメモや、英語に関わる文献のメモです。

主語から主語への繰り上げ(2)

主語から主語への繰り上げ(上昇)を伴う構文について何点か追加。

 

再帰代名詞の先行詞は必ず同じ節中になければいけないが、(1)のような文では再帰代名詞を用いて良いことから、繰り上げ前には不定詞の主語位置にあり、その痕跡が残っていると考えられる。

 

(1)John seems to me to have perjured himself.(ジョンは偽証したように思われる。)

この場合、(2)のように、痕跡tを仮定できる。表記の都合上、(i)は同じものを指すことを表すものとする。

(2)John seems to me [ t(i) to have perjured himself(i)].

 

続いて、不定詞部分が表す時間について考える。

 

(3)Dolphins seem to have the ability to comprehend human speech.

(4)He appeared to be in good health.

(5)He is likely to live to ninety.

 

それぞれがIt...that構文で書き換えられる場合、(3)と(4)はそれぞれDolphins have... / He was...となり、要するに、不定詞部分が表す時間は主節動詞のseem / appearedと同じということになる。一方、(5)の場合、It...that構文で書き換えるとhe will be...となることから分かるように、主節動詞よりも不定詞部分は後の時間を表すことになる。

 

さて、澤田(2016)では以下の仮定がなされている。

(6)seemなどの判断思考動詞の繰り上げ構文では、その補部動詞は状態動詞でなくてはいけない(進行形・完了形が取られる場合はその限りではない)。

(7)seemなどの繰り上げ構文では不定詞部分で表される内容が主節動詞が表す時間よりも後であってはいけない。

(8)seemなどの繰り上げ構文では、その補部の内容は、話し手がその繰り上げられた主語支持物あるいは周りの状況を直接観察した経験に基づく判断を表している。

(9)be likelyなどの予測述語の繰り上げ構文では、主節の動詞が表す時間よりも不定詞部分の表す内容が後でなくてはいけない。

 

気を付けなくてはいけないのは、(6)~(9)は全て繰り上げ構文の場合の話で、It...that構文の場合に関しては述べていない、という点である。例えばseemがit...that構文で用いられた(10)では節中にwillが用いられている。また、以上の仮定を提起している澤田(2016)内でも(11)のような例が挙げられている。

(10)So it seems that biotechnological eugenics will not really contribute to euthanasia in the precise sense -- of dying well.(COCA)

(11)It seems that tomorrow's weather will be cold and cloudy. (*Tomorrow's weather seems to be cold and cloudy.)

 

ただし、試しにアメリカ英語のコーパス(COCA)でIt seems thatを検索すると、3990例ほど出てくるが、It seems that の6語以内にwillが現れるパターンを検索し、関係のない例を取り除くと、およそ40例ほどしか出てこない。3990例に対して40例なので、実際のところ、It...thatでもseemの場合内容的に未来的なものは後続しないのが一般的と言ってよさそうに思える。同様に、It seemed thatで検索すると1550例ほど出てくるが、この構文の6語以内にwouldが後続する例を検索すると、およそ80例ほどしか出てこない。やはり、いずれの構文をとっても、動詞seemよりも後の時間を表す表現は後続しにくいと言えるかもしれない。しかし、willの生起が40/ 3990に対しwouldが80 / 1550ということから考えるに、何らかの理由でIt seemed that...wouldの方が容認されやすいのかもしれない。

 

参考

安藤貞雄(2008)『英語の文型』開拓社.

澤田治美(2016)『続・現代意味解釈講義』開拓社.