英語の勉強メモ

英文中で出会った表現のメモや、英語に関わる文献のメモです。

pseudogappingについて

Goldberg (2019) Explain Me Thisに次のような一文が出てくる。

 

(1)In the first experiment, participants showed a slight tendency to avoid using novel a-adjectives (e.g., afek) prenominally, instead producing them in relative clauses more often than they did adjectives like sleepy or chammy.

 

ここで下線を引いたthey did adjectivesにおけるdidはdid produceのdidであり、こうした助動詞を残して一部が消える構文を疑似空所構文(pseudo-gapping)という。疑似空所という名前があるくらいなので疑似じゃない空所構文もあり、それは以下のような文を指す。

 

(2)John read time, and Mary Newsweek.

 

等位接続詞andに結ばれた二文のうち後半で動詞部分が空白になっている。(1)のような文と(2)のような文では、見て明らかな違いは当然助動詞が残るかどうかにあるが、それ以外にも構造上・文法上かなり異なる構文であるとみなされているらしい。

 

ここでは主にGengel (2013)を参考に(1)のようなpseudo-gappingについていくつかメモをしておく。

 

(3)Growing up, Joachim, 40, spent more time cooking than he did watching television.

(4)It makes me feel as bad as it does you.

(5)You can’t treat him the way you do a child. (八木(1987))

(6)Does that make you mad? It would me.

 

最初の二例のように比較節の中で最も頻繁に現れるらしい。が、(5)や(6)のようにその他の構文でも生起可能である。空所構文は等位節においてのみ許容されるのに対し、疑似空所構文は等位節では許容されないことがある。

 

(7)*You probably just feel relieved, but I do jubilant.

 

が、果たしてそういうことなのか。同じ本の同じページの注釈で “Note, however, that the ungrammaticality of the sentence in (23) (=These leeks look terrible – *Your steak will better.の対話) may stem from a ban on adjectival remnants in general”と言っているので、むしろ形容詞(jubilant)が残る形になっているから(7)はダメなのかもしれない。

 

ところで、(7)で使われている等位接続詞はbutである。空所構文は等位節では許容されるが、他の環境では許容されない、と書いたが、今西・浅野(1990)では等位接続詞の中でもand / or / norの場合は良いが、butは許容されにくい、と説明され次のような例が挙げられている。

 

(8)?Bill ate the peaches, but Harry the grapes.

(9)Some people like bagels, but others creamcheese.

 

今西・浅野によれば、「等位接続詞butは、一番目の等位校と二番目の等位行の間に意味的な対立がある場合に用いられると適切な等位接続となる」ので、(8)ではそのような解釈がしにくいために容認度が低いが、(9)の場合はそうした解釈がしやすいので許容される、ということらしい。

 

さて、(7)の例について等位接続詞ではなく形容詞が問題なのではないか、という点について触れたが、比較節中では形容詞が問題なく現れる。

 

(10)I probably feel more jubilant than you do relieved.

 

やはり上にも書いたように比較節においてはかなり疑似空所構文が生起しやすいということなのかもしれない。

 

動詞がなくなる、という点で言えば疑似空所構文は次のようなVP削除に似ている。

 

(11)Mary met Bill at Berkeley and Sue did too.

(12)Because Pavarotti couldn’t, they asked Domingo to sing the part.

 

ただし違いも多い。第一にVP削除の場合(12)が示すように副詞節の中で先に削除部分が生起できるが、(13)に示されるように疑似空所化構文では容認されない。

 

(13)*Although Mag doesn’t eggplants, Sally eats rutabagas.

 

疑似空所構文では名詞句の一部のみを消すことができない。

 

(14)*While Holly didn’t discuss a report about every boy, she did every girl.

 

一方VP削除の場合可能であるように思われる。

 

(15)I know which woman Holly will discuss a report about, but I don’t know which woman you will.

 

解釈における違いもある。

 

(16)Fred gave flowers to his sweetie because Frank had.

(17)Fred gave flowers to his sweetie because Frank had chocolates.

 

VP削除である(16)では、「フランクが自分の彼女に花をあげたのでフレッドも自分の彼女に花をあげた」と訳せる。ところがこの日本語は僕的には多義で、「①フランクがフランクの彼女に花をあげたので」という解釈と「②フランクがフレッドの彼女に花をあげたので」の解釈の両方が可能に思える。そして、(16)の文はそのどちらの解釈も可能であるらしい。一方の(17)では「フランクがフレッドの彼女にチョコをあげたので」の解釈にしかならない。

 

そういえば、この解釈の揺れ、という点についていえば次のような受験定番の構文でも同じ事がいえるらしい。

 

(18)Tom scratched his arm and so did I.

 

要するに(18)では「①私もトムの腕をひっかいた」の解釈と「②私も私の腕をひっかいた」の解釈の両方がある、ということだ。

 

疑似空所構文と空所構文の違いに話をいったん移す。

 

(19)Mittie ate natto, and I thought that Sam had rice.

(20)*Mittie ate natto, and I thought that Samφrice.

 

この例から分かるように、疑似空所構文は埋め込み節に適用できるが、空所構文はそれが不可能である(わかりやすいように空所にφを書き入れてある)。

 

また、疑似空所化構文では対話において相手の発話に対して用いることができるが、空所化構文はそれができない。

 

(21)Speaker A: Drinks like that knock me over  Speaker B: They would me.

(22)Speaker A: Mary will buy an iPod nano. Speaker B: # Yes, Samφan iPod shuffle.

 

空所化構文の例は畠山(2006)からだが、そこでは、ここでの#は、先行する文の答えとしては不適切であることを示している、と書かれているが、パッと見ただけでは空所化問題なのではなくて、Yesという応答とかみ合ってないだけではないか、という気もするが、まあ、きっとそういうことじゃないんだろう。ちなみに、同書では、(22)の返答部分をYes, Sam will an iPod shuffle.としても同じようにダメだ、と書かれていて、Gengel(2013)と言ってること違うじゃん、という感じはするが、母語話者によっても結構容認性に違いがあるということなのかもしれない。なお、今西・浅野(1990)では次の例があがっており、容認可能だとしている。

 

(23)Speaker A: I just hope it will make you happy.  Speaker B: Hasn’t it you?

 

さて、疑似空所化では比較節に現れやすいということに関して、補足をする。逆に言えばこれは他の環境では制限されるということで、例えば次のような文は容認されない。

 

(24)*Rona looked annoyed, but she didn’t frustrated.

(25)?They don’t own a house, but we do a trailer.

 

このように心理動詞や主語繰り上げ動詞、状態動詞では容認度が著しく低くなるあるいは容認不可となる。

 

(26)More girls were aware that Linda had a false tooth than boys were that Max had a false eyes.

 

一般に疑似空所構文では最後の残る要素(空白の右側)は原則名詞句か前置詞句となるが、(10)で示されたように比較節中の疑似空所構文では形容詞が残ることも許容される。そして、比較節中では(26)が示すように節が右に来る場合も容認されるらしい。

 

 

Gengel, K (2013) Pseudogapping and ellipsis (Vol. 47). OUP Oxford.

畠山雄二 (2006)『言語学の専門家が教える新しい英文法』ベレ出版.

今西典子・浅野一郎 (1990)『照応と削除』大修館書店.

八木孝夫 (1987)『程度表現と比較構造』大修館書店.