英語の勉強メモ

英文中で出会った表現のメモや、英語に関わる文献のメモです。

余分なas

やはり本来なくてもいいはずのものがあると面白い。最近読んでいる小説に次のような一文が出てきた。

 

(1) I know that. Lance knows that. Damn, even 'bloody Robert' as he shall now be forever known as, knows that. (The Night We First Met)

 

簡単に文脈を説明すると、主人公の女性(Marianne)は職場の上司(Robert)と付き合っていたが、ある時、同僚の女とその上司である彼氏が浮気している現場を目撃する。そんな職場で働きたくないので仕事をやめることにしたが、親友(Lance)にその話をしたら、「Marianneは何も悪いことをしていないのに、あなたが仕事を辞めるなんておかしい」と言われた。thatはそれを指している。

 

受験産業では「名詞限定のas」と呼ばれることが多い、あるものやある人物の通称や仲間内の呼び名などを述べるときによく使われるas S be known / as S be calledという言い方があるが、ここでもその表現が使われている。しかし、ここでは最後にasがついている。明らかにこのasは余計である。しかし、考えてみれば、asは<as...as>で使われるし、関係代名詞を使った表現では<which ... as / who ... as>みたいな形は良く用いられるのであるから、そうしたところからの混同で最後にasがついてしまってもそこまで不思議ではない。

 

とか思ってコーパスで調べてみたら、やはりいくつか同様の例が見つかった。

 

(2) MSN, as they are known as, scored a mammoth 125 goals in the whole of 2015, more than some teams managed between them for the calendar year. (FanSided)

(3) Welcome to the world of PassivHaus building, or ‘passive houses’ as they are known as in the UK. (Ecologist)

 

(3)のように後ろにin Xの形が後続しているものが結構多い。as in Xで「Xにおいてそうなのと同じように」という表現なので、それとの合成なのかもしれない。

 

とかいろいろ考えていたら、あることを急に思い出した。そういえば、今でこそ当たり前になってしまって何も思わないけど、そもそも<as S be known>という表現は何とも不思議な言い方だなと昔思っていた。<as S be called>は、call OCのCが抜けた形になっているので、すんなり理解できるが、<S be known X>ではなく、<S be known as X>が正しい言い方なので、なんで<as S be known>なんて言えるんだろうと疑問に思った。要するに、<S be called X>と<S be known as X>という表現で、単純な引き算で考えれば、<as S be called>と対等な形式にするなら<as S be known as>だろ、と思っていた、という話。

 

ある時からas節は補語や補語に準ずる形式や様態の副詞が節内で抜ける形になる、と便宜的に考えるようになった。そして、<as X>は一種の補語と見なすようになった。そのような考え方をするなら、asの句が抜けるのは自然なので、<as S be known>は辻褄が合っているので、今では何も思わなくなった。

 

しかし、改めて昔の疑問を思い返してみると、なんで<as S be known as>ではなく<as S be known>なんだ?と思っていたわけで、(1) ~ (3)のような形があるというのは、もしかしたら昔の僕と同じ気持ち悪さを感じる母語話者もいるのかもしれない、とか思ったりした。

 

ところで、<as S be kown>に比べれば頻度は落ちるものの、<as S be referred to>という言い方もある。次のようなやつ。

 

(4)I recently met a man who works with women's hair, making them into dreadlocks (or locks, as they are referred to these days). (African Arts)

 

refer toも<refer to X as Y>で「XをYと呼ぶ」なので、これもknownと同じでasの句が抜け落ちた構造をしていることになる。そして、予想通り、次のような例がネットに見つかる。

 

(5) Second, none of these funds are considered commissions; they are direct earnings, or bonuses, as they are referred to as, which you receive 100% of.

 

 

忍法一語残し

英語に触れる量が圧倒的に足りてないということに今更ながらようやく気づき、昨年の11月くらいから適当に買った小説を色々と読んでいる。活字恐怖症の僕としてはかなり頑張っている方で、昨日までに300-350ページくらいの小説を6冊読んだ。

 

元々紙じゃないとダメだったが、今はずっとKindleで読んでいる。気になる表現や面白い表現、知らなかった表現などは自分なりのルールを作り色を使い分けながらマーカーを引きながら読めるし、いつでも検索できるのがとても便利。

 

文法的語法的に面白い表現にたくさん出会うのも良いが、同時に、最初は別に気にもならなかったのに読んでいく中で気になりだす表現も結構あり、そうすると、最初の方はマーカーを引いていなかったけど、だんだんマーカーを引き始める表現もあり、そうすると、勉強の出来ない高校生のような、ほぼ全ページマーカー、みたいな状態になってくる。これはこれで面白い。例えば、〈give 人a...smile〉みたいな言い方、意味もわかるし最初は何も気にならなかったが、やたらたくさん出てくるのでだんだん意識するようになり、smile以外にlookも多く、そしてgive以外にofferやshootも多くたくさん出てくるようになり、今はわかるし知ってるけど、あまりにたくさん出てくるとちょっと気になってくるし、他にもなんかこういう使い方をする動詞があるかもしれないと思ってくると、せっかくだしマーカー引いておこう、という気になった。ほどなくslideが使われている用例に出会い、流石にこれは知らなかった。そうしているとある時dartという動詞も類似した使い方をされていることが気になり始める。いつも授業では「読んで意味がとれるのと自分で選択できるの間の溝は大きいのだから、簡単な表現でも常に自分で再現できるかを問うべき」と言っているが、その点、これらの表現はほぼ自分で使ったことがないし、dartに至っては自分からは絶対出てこないだろうと思う。そんなこんなで塗り絵をしながら読んでいると、色々なことに気づくことがある。

 

さて、こんな感じで読書をしているが、この6冊を読む間、ずっとマーカーを引き続けている表現に〈SV..., X〉という形式で、一語だけがカンマの後にポツンと置かれるパターンがある。例えば次のような例。

 

Peter nods, smiling. “Any children?” (The Child I Never Had)

 

このsmilingみたいなやつは、一語だけ孤立してるのがなんとも言えない不思議さがある。こういうのを僕は勝手に忍法一語残しと呼んでいる。

 

別に不自然というわけでもないが、なんか気になるのでとりあえず集めてみた。これからも集めてみるが、途中経過として簡単に整理してみる。

 

まず読んだのは、The Silent Patient / Dreamland / One True Loves / It Ends With Us / The Child I Never Had / In Her Eyesの6冊。

 

全部で合計141例登場した。その中で、二回以上出てくるのは以下の通り。

 

smiling 15

laughing 6

grinning 2

surprised 6

astonished 2

startled 3

stunned 6

exasperated 2

asleep 2

waiting 3

frowning 7

relieved 3

nodding 4

distracted 3

impressed 4

shrugging 3

confused 6

bewildered 2

 

読みながら薄々感じていたがやはり「笑う系」が多い。もう少し広くいえば、表情を表したり感情を表したりする語が多いというのは間違いなさそう。waitingなんかはもちろんそれに該当しないし、listeningやjokingなどの例もあったし、一概には言えないが、ただまあ「感情・表情」が多いのは間違いないと思う。今回集め始める前の記憶を辿ってみても、それはやはりそうだ思う。

 

実際の例をいくつか。

 

I stared at him for a second, stunned. (The Silent Patient)

 

Diomedes and Stephanie stared at me, shocked. (The Silent Patient)

 

“We’ll find a way,” Suzanne said, smiling. (The Child I Never Had)

 

“Then we can just look at the pretty pictures,” he replies, unfazed. (The Child I Never Had)

 

“I already know this answer,” I say, smiling. “My mouth.” (It Ends With Us)

 

 

〈SV..., X〉のVの方も集計をとって見ればいいのかもしれないけど、そこまでのやる気はない。が、読んでいる感覚としては、「発話系」と「見る系」と「立っている系」が多そう。

 

 

 

totalの使い方

totalは日本語でも「トータル」と言うので馴染みのある単語である。いくつか例文で使い方を確認する。

 

The companies have a total of 1,776 employees.(Collins)

 

このように<a total of A>の形で「全部[合計](で)A」の意味になる。 この場合のtotalは名詞である。

 

The sales campaign was a total disaster.(Longman

 

totalには形容詞で「完全な、全くの」の意味を表す使い方がある。この意味の使い方の場合、 <total A>のAにはdisaster / lack / failure / ban / strangerなどがよく使われる。なお、この手のtotalを教える時は僕は一緒に near+absence / collapse / extinction / end / silence / impossibilityなどを紹介する。

 

The total cost of the project would be more than $240 million.(Collins)

 

こちらのように同じ形容詞でも数値的な概念の名詞が来る場合は「合計の」の意味であり、ここでは「合計(トータル)の費用」の意味。

 

さらに、動詞の使い方がある。

 

The group had losses totalling $3 million this year.(Longman

 

Aに数値がきて、<S total A>で「Sは合計でAだ」の意味になる。動詞のこの使い方に関しては、僕はmeasure / weighという動詞と一緒に教える。これらも<S measure A>と<S weigh A>で数値的にS=Aという風になる。

 

この他totalには「破壊する」という動詞の用法がある。

 

さて、totalには辞書に載っていないさらに別の使い方がある。

 

Even as advances in health care have allowed women to delay pregnancy, women are having fewer babies total than their mothers and grandmothers did. (TIME)

 

この、fewer babies totalという部分は「合計でより少ない赤ちゃん」という意味だと思うが、このtotalの使い方は上記のいずれの使い方にも該当しないように思える。実際には、<数量表現+名詞+total>で「合計~の・・・」の意味でよく使われている。例えば、

 

In addition, six students were randomly selected from each group (36 students total) to participate in an interview group. 

 

という例がある。

特に名詞の部分には時間を表す言葉が来るケースが多い。例えば、

 

I played the game for around 20 hours total. (京都産業大

 

みたいな例はかなり頻繁に出くわす。totalにはin totalという熟語があり、これは「合計で」を表す。

 

The entire program lasted 6 months in total ...

 

このような例を見れば、おそらくはin totalのinが抜け落ちた形が定着したと言えるかもしれない。なんとなく、ten years oldのoldみたいな使い方に似ている気もする。あるいは、

 

We need an extra 6 grams a day maximum. (Collins)

 

のmaximumからの影響を受けた使い方とも言える。maximumのこの手の使い方は辞書に掲載されている。at the mostとかat the maximumと説明されている。

 

They used to live between 40 to 60 years maximum. 

 

みたいな例を見ると、totalと酷似した使い方であると分かる。

 

いずれにせよ、<数量表現+A+total>をtotalの使い方の一つとして覚えておいて損はない。

 

 

 

 

 

 

 

『実例が語る前置詞』(くろしお出版)を読んで

ずっと楽しみにしていた、くろしお出版から出ている『実例が語る前置詞』という本を読んだ。byでおなじみの平沢慎也さんのご著作だ。出版されてすぐ読みたかったが、自分の本やその他仕事がもろもろあったので、ずっと我慢していたが、無事に書き終わり、少しだけ余裕ができたので、ゆっくりと読み進め、ようやく読み終わった。

 

本書は一部の前置詞の持つ用法のうち、見逃されがちであったり辞書の記述が十分でないなど、よく使われる使い方なのに盲点になりがちな用法の一部を様々な実例を通して紹介・解説してくれる本である。

 

最近僕の読んでいるModern Loveというエッセイ集の中のAdolescence, Without a Roadmapという作品の中に次のような英文が出てくる。

 

I literally smiled through my tears.

 

自閉症の息子が、自分のかすかな気持ちの変化(亡くなった母親を思い出して悲しくなっていた)に気づいて抱きしめてくれた、という出来事を述べた部分である。ここのsmile through my tearsという表現、英語をある程度勉強した人であればおおよその意味はもしかしたら理解できるかもしれないが、この表現が伝えようとしているニュアンスを理解している、さらにはこの表現を自分が適切に使える、と自信をもって言えるだろうか。本書を読む前の僕は間違いなく無理だった。ジツカタ(著者ご本人がそう呼ばれていたのでここでも使わせてもらう)ではこの表現について明瞭な言葉で説明が与えられ、関連するthroughを用いた表現が多数の実例を通して解説されている。先ほどの引用部分はこのエッセイのかなり感動的なシーンであるが、ジツカタを読んだおかげでその感動(できる)具合が間違いなく上がっている。smile through my tearsの解説を読んだだけで買ってよかったと思える。

 

本書は最初から最後までこうした感動の連続であり、学びの連続である。英語への向き合い方も学べるし、具体的な数多くの前置詞表現をもちろん学べる、すごい本。予備校や塾の先生をはじめとして英語を教えている人には必読だと思う。あまりネタバレをしたくないので具体的な表現を挙げることは避けるが、入試問題の長文を読んでいれば当然のように出てくる表現も多数登場する。前置詞を含む表現の解説を雰囲気でごまかしたりしないためにも、お読みになることを強くお勧めしたい。僕自身一回読んだだけではとてもではないが吸収し切れていないので、今後も何度も読み返したいと思う。

 

 

 

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『知られざる英語の「素顔」』のコラム

僕の書いた『知られざる英語の「素顔」』をお読みいただいた/ている皆様、どうもありがとうございます。少しでも楽しんでいただけていれば嬉しいです。

 

元々この本にはいくつかのコラムがあったのですが、もろもろの事情によりコラムはカットしました。そのうちの一つをせっかくなのでここで公開します。同僚や同業の先生方に良く受ける相談として「英語について詳しく勉強したいが、言語学の論文や専門書は自分には敷居が高いので正直読めない。でも英文法について詳しく勉強したいが、何か方法はないか」というものがあります。以下の未公開コラムはそうした相談に答えるつもりで書いたものです。

 

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コラム① 専門書はとりあえず買う

英語について深く知りたいと思う場合、たくさん英語に触れるというのが一つの選択肢であり、おそらくは一番大切なことです。その他にできることには何があるでしょうか。最低限度の知識を確認するのに学習参考書などを頼りにすることは良いと思いますが、狭い範囲の英語しか扱っていないことが多いので、そこで満足してしまうと「軽量化した英語」から抜け出すことが出来ません。そこで僕は、英語の文法や表現を扱った言語学の論文や専門書を読むことをお勧めします。

 「言語学」「論文」「専門書」というキーワードを聞くと、敷居が高いように感じてしまうかもしれません。「読めるものなら読みたいんだけど、難しくて良く分からない」という印象をお持ちの方も多いでしょうし、実際そういう相談をこれまでたくさん受けてきました。そこで、このコラムではそうしたある種の「苦手意識」を少しでも取り除けるようなお話をしたいと思います。

 まず最初に言うと、僕は言語学がさっぱり分かりません。一時期は言語学をちゃんと勉強しようと思った時期もありましたが、あまり興味も持てないし難しくて理解もできないし、学問としての「言語学」とは早期にお別れを告げました。ところが、そんな僕の家には(おそらく)研究者にも負けないくらいの冊数の英語を扱った専門書や論文が積んであります。

 英語を扱った専門書や論文(くどいので以下では「専門書」とのみ表記します)では、理論的で専門的な内容が議論されていますが、英語を扱う以上、英語の「言語事実」が少なからず記述されています。理論というのは「なぜある言語事実はそうなっているのか」を説明するものと言えると思いますが、その理論を述べるためには、説明する対象としての「言語事実」に言及せざるを得ません。

 僕が良く分かりもしないのに大量に研究書を購入しているのは、その「言語事実」を知るためです。300ページくらいの中に、自分の知らなかった言語事実を記述している部分はたったの2ページ、なんてこともありますが、それでもその2ページには価値があると思うのです。

 正直に言うと、僕は専門書を買う時に最初から全部読もうなどとは一切思っていません。「全部読もう」とするから余計に億劫になってしまうのです。読みたいとこだけ読んでいます。中には全部通読したものもありますが、大半は一部しか読んでいません。気負いせず、読みたいところだけ読みましょう。

 「全く意味不明」であったり「実は全然興味のない内容だった」と思って、買ってすぐに読まれることもなく(僕によって)本棚に積まれるかわいそうな本がたくさんあります。ここ数年で強く感じるのですが、そうした「積読まっしぐら」の本たちは、いつか必ず役に立つ時が来ます。英語の勉強を続ける中で、ふとした瞬間に出てきた疑問の解決の糸口が、そうした本の中に実は書かれていた、と言うことが多いのです。ですから、怖がることなく、「とりあえず」専門書は買って寝かせておきましょう。

 日本語で書かれた専門書も大切ですが、英語で書かれた専門書も是非とも読んでください。なぜなら、まず読むだけで英語の勉強になるからです。高校生が英語の長文に取り組むのと同じ感じで専門書を読むわけですね。書いてある内容が仮に意味不明でも、読むだけで英語の勉強にはなるなんて、なんと便利なツールでしょう。

 研究をする人であれば、こういうスタンスで専門書と向き合うことは褒められたことではないでしょう。そもそもこういう読み方は「読んだことにはならない!」とお叱りを受けるかもしれませんが(笑)、英語の勉強のためということであれば、十分立派な学習法です。
 長い年月をかけて言語学の研究が明らかにしてきた、数えきれないほどの英語の言語事実を無視するのは勿体ないことです。あまり硬くならずに、軽い気持ちで読めばいいのです。僕は昔から本当に適当な人間です。「分かるとこだけ拾おう」これが僕が研究書を読むときの心構えです。僕が専門書を読む時に目で追っている文字数の95%くらいはおそらく何を言っているかさっぱり分かっていません。それでも、気づいたら人よりは英語のことに(たぶん)詳しくなっていました。

 さあどうでしょう。なんだか出来そうな気がしてきたんじゃないですか。そう思った方は、本屋の「言語学」「英語学」「英文法」などといったコーナーに行き、興味を持った、英語に関係のありそうな本を試しに手に取ってみてください。あるいは、インターネット通販サイトで「英文法」などと検索をして、出てきた興味のありそうな本をポチっとしてみましょう。きっと、これまでみなさんが知らなかった英語の一面を教えてくれることでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

『知られざる英語の「素顔」』のご紹介

明日9/5、僕の書いた「知られざる英語の『素顔』」がついに発売になります。

 

Amazonリンク↓

知られざる英語の「素顔」-- 入試問題が教えてくれた言語事実 47 https://amzn.asia/d/aPaixLJ

 

(事前にご予約いただいていた皆様、大変長らくお待たせしました)

 

以下、簡単に本書を紹介します。

 

①対象は?

英語が好き・得意で、もっと詳しく英語のことを知りたい人に読んでもらうことを想定して書きました。高校生・受験生でも、高校や予備校・塾の先生でも、大学生でも、社会人の方でも、英語が好きな方であればどなたでも楽しめるように書いたつもりです。

 

②執筆の動機・目的

昔からずっと思っていることとして、「新しい本をわざわざ出すなら内容に新規性が欲しい」ということがあります。

 

もちろん、長文問題集であれば、英語の学習においてはいろんな英文にたくさん触れる必要がありますから、長文の題材そのものが違えば、仮に説明や取り上げている文法・語法の項目が全く同じでも、新しいものがたくさん出ることに大きな意義があると思います。

 

一方、文法や語法、構文をメインに扱ったものの場合、特に、問題集ではなく解説メインの参考書的なものの場合、内容に新規性が無いのなら、そんなに新しいものを何冊も出すことにあまり意味はないのでは無いか、とずっと思っています。(これは僕の個人的な考え方であり、今世の中に出回っている問題集が悪いと言っているわけではありません)

 

そこで、英語にたくさん触れていれば当たり前のように遭遇する英語の現象のうち、これまで学習参考書等でほとんど取り上げられることのなかったものに焦点を当て、解説をする本を書きました。「ほとんど取り上げられることのなかった」というのは、もちろん僕の知っている範囲で、という話で、もしかしたら、すでに当たり前のように既存の学習参考書に書かれている、なんてこともあるかもしれません。その場合は僕の認識不足ということで、申し訳ありません。

 

既存の学習参考書で取り上げられていない英語の現象は無限にありますが、本書で取り上げたのは、その中でも「普通に英語としてはよくある」ものです。「マニアック」な本を書こうとしたわけではなく、「英語ならありがちなことなのでこれくらいのことは普通に知られて欲しい」と思っている項目に絞って書きました。

 

本書では主な題材として入試問題を選びました。それはもちろん僕が受験産業の人間だから、というのもありますが、他の理由もあります。それは本書の「はじめに」で書きましたので、よろしければそちらをご覧ください。

(「はじめに」はhttp://www.place-inc.net/details/sugao/sugao.htmlで読めます)

 

このことに関連して一つ言うと、「入試の英文ですらたくさん出てくる」という文言が本書の中で繰り返し出てきます。この「入試の英文ですら」という言葉が意味するのは「書き換えられていることが多い入試の英文ですら」ということです。入試問題の長文はほとんどが雑誌や新聞の記事、洋書からの抜粋ですが、多くの場合、原典から書き換えがなされています。単語を簡単にしたり、複雑な構文を簡単にしたり、学校文法のルールに則らない部分を書き換えたり、といった具合です。つまり、入試問題は「学校や塾で習った通りに読めるはず」の英文になっていることが多いのです。そんな「単純化された入試問題」の英文ですら出てくる、ということは、実際の「生の(?)」英語ではもっと当たり前のように出てくる、ということになります。「入試の英文ですら」という言葉に込めたのはこういうことです。

 

まだまだ全然不十分であることはよーく認識した上で言うのですが、僕はこれまでそれなりの量英語に触れてきました。その中で、当たり前のように出くわす英語の現象がたくさんあります。ですが、参考書を見てもどこにも書かれていない、なんてことが信じられないくらいたくさんあるのです。こうした、「当たり前が当たり前じゃない」現状を変えたくて、本書を書きました。

 

別に僕は「僕はこんなことまで知っているんだぞすごいだろ!」なんてことが言いたくて、言い換えるなら、自分の知識をひけらかしたいとかマウントを取りたいとか、そんなくだらないことがしたくて本を書いたわけではありません。英語が大好きなので、少しでもよく英語のことを知って欲しい、という気持ちの表れです。

 

過度に単純化された説明を見たり聞いたりすると本当に辛い気持ちになります。そして、一番辛いのは、「ネイティブも文法は適当だよ」という発言です。自分の知っているルールに従わないものを全て「ネイティブも間違う」で片付ける人を見ると、本当に悲しい気持ちになります。なにも僕は母語話者が絶対間違わないと言っているわけではありません。ですが、僕が遭遇する「ネイティブも間違う」発言の事例の98%くらいは、単にそう言っている本人が英語の文法現象を知らないだけなのです(もちろん、何をもって「正しい」「間違っている」とするかという難しい問題はありますが、その話はここでは割愛します)。そういうわけで、日本中の英語に関する「当たり前」の範囲をほんの少しでも広げたいと思って本書を書いたのです。

 

③内容

入試問題の長文問題を中心に、その他僕が読んだ小説や見た映画、ドラマ等の用例を使いながら、47の英語の現象について説明しています。ただ、大きな項目としては47ですが、一つのセクションでいくつかの話題を扱っているケースもありますので、実際は(数え方にもよると思いますが)およそ60くらいのテーマがあると思っていただいて良いかと思います。

 

語学においては文法的な理解とは別に、よくある言い方をそのまま覚えることも重要です。本書ではそれも意識しつつ、なるべく具体的な形で「こういうフレーズで使われやすい」というのもたくさん紹介するようにしました。

 

一部言語学の文献等を参考にさせていただいていますが、本書は言語学の本では当然ありません。言語学の知識は全く前提にしていません(そもそも言語学のことは僕がわからないので安心してください)。ですから、もし万が一ご専門の方が見られた場合、説明の仕方に相当な問題がある、なんてことももしかしたらあるかもしれませんが、本書の趣旨は学問的に正確な分析を紹介することではなく、「英語の言語現象としてどういうことが起こりうるのか」を紹介することですから、気軽な気持ちで(?)読んでもらえればと思います。もし、言語事実そのものの誤認が含まれていれば、申し訳ございません。それは僕の不勉強ということで、ご教示いただければ幸いです。

 

④さいごに

英語の勉強はどこまで行っても終わりません。どんなに勉強してもわからないことだらけです。そんな中で、少しでも皆様の英語の理解が向上する手助けになれば幸いです。

 

是非、本屋で手に取ってもらえたら嬉しいです。ここが面白かった、これは授業で自分も教えている、など、色々と感想を頂けると励みになります。

 

どうぞよろしくお願いします。

 

 

 

tough構文とhurt

授業ではかなり念入りに説明することが多い動詞の一つがhurtである。

これはなかなかの曲者で、かなり多様なパターンをとる。いくつか挙げておこう。

 

(1)Was anyone hurt in the accident?

 

まずは、「誰か(または自分)を怪我させる・傷つける」の使い方。この例のように受身で「ケガする」と使ったりhurt oneselfの形で使うことが多い。

 

(2)He had hurt his back in an accident.

 

この例のように、体の部位を目的語にとって「~を怪我する、痛める」という使い方もできる。

 

(3)Fred’s knees hurt after skiing all day.

 

さらに、この例のように、痛む部位そのものを主語にとって、「~が痛む」の意味でも使える。

 

(4)These new boots hurt.

 

さらには、こういう痛みを生み出すものを主語にして、「~は痛い」の意味でも使える。ただ、その他の用法と比べるとこれはさほど多くはない気もする。

 

その他、感情を傷つける(害する)というような使い方もある。

 

映画とかを見ていてやたら聞くのは、You're hurting me.というやつで、「ねえ痛いんだけど!」的な感じか。相手が気づいていないので諭す感じで使うケースが多いように思える。

 

なお、最近映画でストックした用例には、Just because we keep living doesn't mean we stop hurting.というのがある。just because...doesn't meanとセットで良い感じの例。

 

さて、hurtにはさらに次のような使い方もある。

 

(5)It really hurts that you’d believe her instead of me.

(6)It never hurts to ask.

(7)It won't hurt you to be polite for a change.

(8)It hurt me to think that you hated me.

 

これらは定型表現だが、文法的に言うなら仮主語ということになるだろうか。仮主語ではないが、副詞節を受けるタイプのitを使うケースもある。

 

(9)It hurts when I try to move my leg.

 

こうした使い方はいずれも辞書に掲載されているが、hurtには辞書には載らない変わった使い方がある。Scientific Americanの記事に出てきた次の例を見てみよう。

 

(10)Some editorials simply hurt to write.

 

お気づきだろうか。writeの目的語がない。そして、それは文の主語のsome editorialsになっている(アメリカの銃撃事件を扱った記事の冒頭)。これは、要するに、tough構文みたいになっている。

 

tough構文は<S be 形容詞 to do>という形容詞を使ったやつだけでなく、よく知られているように、動詞を使ったtough構文(に相当するパターン)がある(verbal tough constructionと呼ばれることがあるらしい)。典型的にはtake / cost / requireを使ったもので、例えば、

 

(11)This task took eight hours to complete.

 

などが該当する。completeの目的語は文の主語になっているので、確かに形式上はtough構文に似ている。あまり知られていないが、いわゆる心理動詞も次の例のようにtough構文をとれるらしい。

 

(12)This book amuses Mary to read.

 

それでは、最後にtough構文型のhurtの例を追加しておく。

 

(13)That ban message hurts to look at.

(14)If this hurts to think about, it’s really no different than they way NFS itself works.

 

こういう動詞は探せばいくらでも出てきそう。