That's whyについて
学習院女子大の会話問題で以下のようなものがある。
Sam: I’ve had enough of my job. I’m really thinking of quitting once and for all.
Jon: What’s the matter, Sam? I thought you liked your job.
Sam: I did. That is, until my old boss left the company. Now, we have a new guy, who’s really pushy and stubborn. He never listens to anybody. He just has to have everything his own way.
Jon: Sounds like he’s a horrible person to work with.
Sam: You can say that again. That’s why I’m going to start looking for a new job.
設問箇所は埋めてある。
下線を引いたthat's whyは受験でも定番の表現で、that is becauseと混同しないようになどと注意喚起されることが多い気がする。自分の授業ではこれは「だから」という日本語を当てておくといいと言っている。文法的にはthat is the reason why SVという表現の先行詞省略という説明がされることが多いが、基本的にthat's whyの形で頻繁に使うので、ある種の固定化された構文パターンと言えると思う。COCAで検索してみると
That is why:3358例
That's why:27241例
That is the reason why:38例
ということで、that's whyの形が圧倒的に多い。
しかし、この構文にただ「だから」という日本語を当ててしまうとthereforeとかsoとかとの違いがいまいちわからなくなってしまう。だけど感覚としては、被る部分はあるにせよ、明らかに違う気がする。
大堀壽夫 (2013)「That's whyの談話機能」(秋元実治・前田満 (2013)『文法化と構文化』ひつじ書房.)ではこの構文についていくつか面白い指摘がされている。自分の関心のある部分をあげると、
①後続する主語は一人称のIが多い。(COCAでThat's whyの主語にIが来る例は6270例なので、確かに多い気がする。)
②後続する内容は既知の情報であることが多い。
③話に区切りをつける働きがある。
④自己正当化のためのストラテジーである。(「それはthat's whyの持ちびく部分が表す発話内容が、進行中の談話において有意義かつ妥当なものであったということの主張である。」(p90))
まとめとして次のように書かれている。
That's whyは既知の情報を再提示するか、ある情報を既知のものとして装って提示し、その妥当性・重要性を新たに明示的に主張・確認する働きを持つ。それによってグローバルな話題への話し手の関与を終結させる。同時に、その話題についての話し手のそれまでの態度や発言が進行中の談話において有意義かつ妥当なものであったということの正当化のストラテジーとなっている。(p92)
たしかに、上に挙げた入試問題の会話文では以上のことがすべて当てはまるように思われる。
もちろんもう少し細かく検討はあるだろうが、感覚としては、確かになぁ~と思う部分が多い。