昨日のエントリーでは「描写述語はwh移動が許されないが結果述語は許される」と書いたが、この一般化に久野・高見 (2018)は反論している。
(1)*How angry did John leave the room?(描写構文)
(2)*How raw did John eat he meat?(描写構文)
(3)How flat did John hammer the metal?(結果構文)
簡潔に言うと、こうした可/不可は描写述語か結果述語か、という点が問題なのでなく、それらで使われる形容詞が、疑問文の形ではない場合の<V...AP>の形を簡単に想起できるかどうか、という点が重要だという。例えば(1)の場合、<leave the room angry>が高頻度で用いられるパターンではないため不適格、一方の(3)は<hammer the metal flat>が高頻度のパターンなため適格、と説明される。なお、(2)の場合、そもそもrawが程度を含まない形容詞なため、how rawという言い方それ自身が不自然、という点も関係がある。
個人的な感想としては、これまで一般に結果構文が疑問詞化OKに対し描写構文は疑問詞化NGと言われるてきたのは、そもそも結果構文が動詞によって選択制限がかなり強いため、高頻度で使うもの以外はあまりそもそも結果構文として認可されないためだと思う。
描写述語か結果述語か、という点は関係ないと主張する根拠に、以下のような例が挙げられている。
(4)How rare do you usually eat your steaks?(描写述語)
(5)??/ *How flat did the gardener water the tulips? (結果述語)
描写述語でも(4)の場合もともとが<eat your steaks rear>であり、この形が頻繁に用いられるため可能だ、と説明される。(5)も同様の観点から説明される。
以下では結果構文の意味的な側面について岩田 (2012)で説明されていることをいくつかメモしておく。
(6)He hammered the metal flat.
(7)He painted the wall red.
これらはどちらも結果構文だが、タイプが違うという。(6)で使われている動詞のhammer自身には「状態変化」の意味がないが、flatがつくことで結果構文という全体の形から「平らになる」という結果の意味が生まれる。一方の(7)は、paintがそもそも「色を塗って違う色に変える」という「状態変化」の意味があるのであり、それはredがあってもなくても変わらない。
日本語に訳してみると、(6)は「*彼は金属を平らにたたいた」とはいえず、「彼はたたくことにより金属を平らにした。」くらいになる。(7)は「彼は壁を赤く塗った。」となり、直訳できる(この本を初めて読んだのは4年前だが、その時の感想として、「直訳できる」の直訳が一体何を指しているのかよく分からない、という疑問があったが、今見返してみると、今もよく分からない)。逆に、「(?)彼は塗ることにより壁を赤くした。」とは普通は言わない。paintと同じタイプは自動詞にも存在する。
(8)The lake froze solid.「湖はカチカチに凍った。」
ちなみにfreezeは自他交替を起こす動詞であることを確認しておく。
この二つの動詞のタイプを確認すると、hammerタイプは「たたく」という工程を指し、そこにflatがつくことで「平らになる」という状態変化が表されるのに対し、freezeタイプではそもそもが「凍る」という「状態変化」を指し、結果述語のsolidは「凍る」を違う側面から述べたに過ぎない。
(9)*The vase broke worthless.
(10)The vase broke into pieces.
同じ動詞を使っていてもこのように可/不可が異なることがある。意味的に考えれば「花瓶が割れて価値がなくなった。」となり(9)も問題なさそうだが、(10)と違って容認されない。それは、brokeという工程を考えたときに「割れる⇒粉々になる⇒価値がなくなる」という順番で、結果構文で表せるのは最初の(直接的な)結果だという。
参考
岩田彩志 (2012) 『英語のしくみと文法のからくり 語彙・構文アプローチ』開拓社.
久野・高見 (2018) 『謎解きの英文法 形容詞』くろしお出版.