英語の勉強メモ

英文中で出会った表現のメモや、英語に関わる文献のメモです。

「長文を早く読めるようになりたいのですが」への回答

毎年必ず受ける相談が「長文を早く読めるようになりたいのですがどうしたらいいですか」である。無理もないことで、入試ではかなり長い長文を読まなくてはいけないことも多く、時間制限も決して余裕ではない。そこで、世のため人のため、この相談に関しいつも回答していることをまとめて文字化しておく。

 

①語彙力・表現力をつける

「文脈判断」するにはそれこそ時間がかかるので、文脈判断しなくていいように最初っから使われている語彙を知っていることが大切。知らない単語があるとそこで止まってしまう。その時間が無駄なので、なるべく知らない単語がない状態にすることが大切。もちろん、全部は無理だし、僕でもいまだに入試の英文を読んでいて知らない語が出てくることはある。が、あって(if any)一つの長文に一つくらいのもので、受験生であれば、一つの長文に知らない語があっても(固有名詞以外は)せいぜい3つくらいまでにしておきたい。「なるべく最小限にとどめて」ではなく「なるべく限界まで覚える」という姿勢で勉強した方がいい。

語彙の勉強をするとき、極端に難しい語をたくさん覚えることも大事だが(例えばexacerbateとか)、簡単な語でもそれが実際にどのように使われるかを知っていることも大切。例えばraiseという動詞を考えよう。raiseは「あげる」で覚えている人が多いが、実際によくraiseの目的語に来る語は例えばfunds / awareness / question(s) / childrenなどが多い。こういう「どのように使われるか」の知識をしっかりと身につけていきたい。そういう時どのように勉強するか、に関してだが、おすすめは英英辞典を引くこと。例えばLongman英英辞典で raiseを引くともちろん分かりやすい定義も素晴らしいが、例文が秀逸である。例えば、

例:a campaign to raise awareness of meningitis

例:They are raising funds to help needy youngsters.

こんな風に載っている。そもそも例文がよく使われるフレーズで載っているだけでありがたいのに、その中でも本当によく使うやつに関してはこうして太字にしてくれている。こういうのを意識的に覚えて行こうという姿勢が大切である。例えば次のような入試問題を見てみよう。

Students of archeology are attracted to the field because the whole world is open to study, if you can raise sufficient (  5  ) to support your search.[早稲田大]

(a) funds  (b) information (c) materials  (d) potential

さて、この問題、0.01秒で解ける。raiseがあるんだからもうfundsしかない。まるでそこに設問など存在していなかったかの如く、流れるように読み進め、気づいたら(a)fundsに〇をつけているだろう。英語力というのはこういうものを指す(なお、funds to support Aもよくある表現)。逆に、materialsやinformationを絶対に意味的に違うという観点で切れるのか甚だ疑問。少なくとも僕には無理。

 

もう一問見てみよう。

"We want to raise (  ㉓  ) about this issue on multiple levels ― from individuals and families to schools, employers and elected officials."[川崎医科大]

問23 ( ㉓ )
ⓐ awareness ⓑ equality ⓒ funds ⓓ complaints

 

さて、この問題、raise awarenessを知っていれば0.1秒でこたえられる。確かにfundsも上で見た通りありうるが、ここではraise awareness of [about] Aという形であるから、やはりawarenessである。

 

さて、次は別の語についての問題を見てみよう。

In fact, the conservative British prime minister, Margaret Thatcher was one of the first world leaders to call for ( 1 ) action on the issue more than 20 years ago.[慶應大]

問:What word would best fit in the blank? The answer is: (1) .
1 rigid  2 negligent  3 trivial  4 urgent

 

さて、ここでnegligentとtrivialがダメなのはいいとして、rigidとurgentは意味的に選択可能なのか。まあ無理やり頑張ればできるのかもしれないが、そんなこと考えずとも、語の組み合わせ的に、すなわち、コロケーション的に、urgent actionしかありえない。ここで、Longmanでurgentを調べ、そこで採用されている例文を見てみよう。

例:The report called for urgent action to reduce lead in petrol.

 

文脈判断??はいお疲れ~。まあ、そういうことなんだよ。しかもよく見てみればcall for urgent actionでセットフレーズ。だから、英英辞典はちゃんと引いて、例文には目を通し、特に太字となっているものは繰り返し読んで体になじませておいた方がいい。

 

もちろん、英英辞典に載っているものがすべてではない。そうであるから、あとは授業でどれだけそうしたよくある言い回し・表現・コロケーションを表現を教員(先生/講師)が教えてくれるか、にかかっている。

 

さて、こうした表現力を鍛えることが本当に速く読むことにつながるか、ということだが、間違いなくつながる。もし最初っから知らないとすると、文法的知識と個別の語彙知識を組み合わせて読むことになるので、そこにはある種の計算の過程が存在する。例えばcall forで「要求する」の意味、何を?に当たる目的語が「緊急の行動」で、それを足し算する。そんな悠長なことをしている場合ではないので、called for urgent actionという四単語で「緊急の対策を要求する」という一つの意味だとパッと分かることが大事。要するに、called for urgent actionを知っていれば、ここには4単語もあるのに、一語と同じ扱いになる。

 

4単語が一語だヨ、こんなに省エネできるんだよ最高じゃん

 

さて、他の例を考えよう。it should come as no surprise that SVという言い方はどうだろうか。これも非常によく使う表現だが、ここにはthatまでで7語もある。ところが、it should come as no surprise thatが一セットで頭に入っていれば、これはもはや一語。

 

7単語が一語になるんだよ、こんなに省エネなこと、なかなかないよ

 

つまり、要するに、「文法的に計算すれば全体の意味は分かるからぁ~」とか言っていると、律義に本文の総語数相当の文を逐一計算しながら読むことになるが、こうしたよくあるフレーズがよく使うフレーズとして頭の中で形式と意味が結びついた形で存在していれば、極端な話、総語数の半分くらいのエネルギーで読める。例えばさきほどのit should come as no surprise that SVは、「itは仮主語。shouldは助動詞、comeはなんだ?来るの意味か?まあいいや、とりあえず次。asはここでは前置詞で、としての意味で、surpriseは、ここでは名詞かあ~」とかやっているから読むのに時間がかかる。thank youという表現でthankは動詞でyouは目的語だから代名詞を目的格にして~、とか誰も考えていないでしょ。それと同じこと。

だらか、英英辞典をたくさん引いて、よく使うフレーズに慣れ親しみ、同時に、長文などを読む中で出会った表現をノートにまとめるなりしてストックしていく。熟語として辞書に載っていなくても、「あ、これこういう言い方するんだ」と思ったものはメモっていけばよい。

英語にはよくある表現があふれている。例えば、

despite the 名詞 to the contrary / When one thinks of A, B come quickly to mind / situation where... / the fact remains that SV / 文, which means SV / There is something about A that ... / by which I mean... / be of relatively recent origin / If A is anything to go by  / 形容詞 as it may seem / disappearなど消極的意味を持つ動詞+altogether / A was just right when A said / in spite of the fact that SV / in stark contrast to / It is hard [impossible] to exaggerate... / It was only a matter of time before [until] ... / give [provide] a clear picture of... / There is an increasing tendency for A to do / It can safely be said that SV / It is no exaggeration to say [state] ... / A is not to be confused with B / That is all it takes to do

などなど、もちろんきりがない。

 

熟語というほどではないがよく使う表現「も」(もちろん熟語も)大量に覚えることで、(文法的に・一語一語の意味を)考えずとも意味が分かるようにしておくことが大切。これほどわかりやすく実用的な「速く読む方法」かつ「瞬時に問題を解く方法」もなかなかないと思うんだけどなあ。

 

長文をぼーっと読んで、何もせず終わり、はもったいない。授業でずっと言っているが、「なるべく覚えずに」というコスパは英語力の妨げにしかならない。一方、同じコスパでも、「一つの長文からなるべく多くを学ぶ」のコスパは良いと思う。一つの長文から学べる英語の表現は大量にある。できる限りそれを吸収するつもりで、チューイングガムのごとく、とことん英文をしゃぶりつくすべきである。

 

②構文の把握の練習を徹底する

構文を把握する練習、すなわち精読は速読にとって大切である。結局、早く読みたければ、無意識レベルで構造を瞬時にとれるようになる必要がある。よって、速読できるようになりたい、というなら、逆説的だが、一文一文を正確に読む訓練を積み、英語のありとあらゆる構造に慣れておくことが大切。結局は①と同じ話だが、構文とか英文解釈とかいうのは、抽象度の上がった「英語のよくある言い方」の学習に他ならない。「主語の次には動詞が来る」というのだって「よくあるパターン」の一つであり、giveの次には名詞句が二つ続くというのも「よくあるパターンの」の一つに過ぎない。<名詞句+過去分詞>は過去分詞が後ろから名詞を修飾しているわけだが、これだって一つのよくあるパターンに過ぎない。例えば倒置という現象にしたって、よくあるパターンの一つに過ぎない。例えば形容詞が文頭に来る場合、実際に倒置のケースでは多くが<比較系の表現or equally+形容詞>のような形をしてる。逆に言えば、この形を頭で見た瞬間に、後ろにbe Sを読み取る。最初はそういうことを意識的にしていたのが、繰り返し読んでいるうちに、考えなくとも「そういうものなんでしょ」という境地へと至る。

 

人間の頭の容量は決まっているので、文構造の計算的に理解することに一生懸命頭の容量を使っていたら、そりゃあもちろん、内容なんて頭に入ってこない。「速く読みたい」と同じくらい多く来る相談は「読みながら内容を忘れる」というやつで、それは単に、「構造をとる」ことに頭の容量を使いすぎということで、簡単に言えば、英語の勉強不足である。

 

③無駄なことをしない

さて、ここまで読んできて、そんなに覚えられないよぉ~とか言っている人。遠慮なく落ちてください。あなたの英語力は上がりません。ただし、君たちの努力のうち、無駄な部分は省いた方がいいとも思っている。例えば、<V O to do>という形式について、これが第何文型なのか、とかそんなことはどうでもいいので考える意味があまりない。「Oが~する」という関係が理解できれば少なくとも英文を読んだり書いたりする点で困ることはない。つまり、<V O to do>は<V O to do>であり、それ以外に不要な分類を与える必要はない。最近は減ったと思うが、There is構文は何文型ですか、とかどうでもいい。keep ingのingは分詞なのか動名詞なのか、もどうでもいい。結局、「~がある」と「~し続ける」という意味であると分かることが大切なので、それ以上の無意味な分類は少なくとも学習上は不要である。要するに、ある表現形式とその形式が持つ意味が分かれば、それで十分であり、それがわかるのに不要な分類にこだわるのは無駄でしかない。もちろん、ある分類を理解することが役に立つことも多いので、そこのさじ加減は難しいが、そこは習っている先生を信じるしかない。

 

最後に英英辞典について。Longmanはやはりよくある表現への配慮が大変優れているし、定義に使われる後も簡単なので学習者には良い。その他おススメはCollinsで、レベルは高いが、定義少し回りくどい(長ったらしい)ものの、その分かなりわかりやすい。あとはCambridge。これはある表現の言い換えをよく提示してくれ、そこが勉強になる。あとは、(個人的感想だが)なるべく多くの語義をまとめてシンプルに定義してあり、時間がない中でサクッと確認したいときには向いている。

 

 

さあ、ということで、英語の勉強をしましょう。「それぞれの単語の意味を足し合わせたらなんとなく意味は分かりまっす」次元で止まっていては英語力の大した向上は望めない。

 

簡単にまとめれば、具体的な表現レベルでも、抽象的な構造レベルでも、英語のよくあるパターンに死に物狂いで慣れて行こうという姿勢が大切ということ。