英語の勉強メモ

英文中で出会った表現のメモや、英語に関わる文献のメモです。

懸垂分詞構文について

早瀬尚子 (2009) 「懸垂分詞構文を動機づける「内」の視点」から何点かメモをしておく。

 

受験の作文でもよく言われることかもしれないが、次の(1)の日本語の英訳としては(2)よりも(3)がよい。

 

(1)ドアを開けると、見知らぬ女性が立っていた。

(2)When I opened the door, a strange woman was standing there.

(3)When I opened the door, I saw a strange woman standing there.

 

英語は状況を外部の視点から客観的に表現する傾向があるのに対し、日本語は描写する状況の中に自分を置いて、そこから見えるままの世界を表現する傾向がある。そうすると、ドアを開けたときに見える世界をそのまま表した日本語の(1)は自然だが、一方の(3)はそれをあえて客観的に「自分が見た」と述べているため、英語としては自然だと解釈できる。そして、英語の懸垂分詞構文は、ちょうど(1)のタイプの視点の取り方と重なるらしい。「概念化者の視点が分詞句に内在している」そうだ。

 

さて、ここでLangackerのsubjectification(主体性)が登場する。有名な次の例を考える。

 

(4)Vanessa is sitting across the table from Veronica.

(5)Vanessa is sitting across the table from me.

(6)Vanessa is sitting across the table. 

 

ここで、(5)と(6)では客観的には同じ内容を表しているが、(5)は「私から見て」と表現している点で、上の(3)に近い。一方の(6)は表現上現れないため(⇒ゼロ形)、見えたままを表していて、より「主体的」な把握の仕方となる。

 

(なお、(5)の表現は、この状況をとらえた写真があり、それを見ているような時に自然な言い方となる、と説明されるが、何人かのネイティブスピーカーに(5)と(6)にそうした違いがあるかと聞いたことがあるが、皆、そういう違いは感じない、と言っていた。)

 

(7)Entering the railway hotel, he ordered a pot of coffee.

(8)Looking round, his father stood before him.

(9)Arriving at the park office, things looked grim at first.

(10)Entering the monastery, the ticket office is on the left.

 

この4例はいずれも分詞構文だが、(7)は普通の分詞構文で、残りは懸垂分詞構文である。早瀬によれば下に行くにつれて主体性が増しているという。(7)が一番客観的な描写で、(8)は主節のhimの視点に入り込む形で描写しているので主体性が増す。そして(9)では文中に一切意味上の主語が現れていないタイプ(ゼロ形)で、つまり概念化者自身が見たままの世界を描写しているため、さらに主体性が増す。(10)では、さらに主体性が増しているらしい。ここでは実際に見ている情景ではなく、頭の中での仮想世界の描写をしていて、そこでは、描写された状況が聞き手にも共有される。懸垂分詞構文では主節が現在時制であるケースが過半数で、その多くは(10)のような仮想世界の描写になっているという。