英語の勉強メモ

英文中で出会った表現のメモや、英語に関わる文献のメモです。

before節内の過去完了と関連事項

大学の(大)先輩でもあり職場の(大)先輩でもある田上芳彦先生の『英文法の「例外」の底力』(プレイス)という本が最近出版され、その中でbeforeの節中で過去完了形が使われているケースが取り上げられている。

<X before Y>という構文ではXがYよりも時間的に前になるが、場合によってはXが過去形でYが過去完了形になっているケースがあると書かれている。過去完了が一般に過去よりも前のことを表すと考えたときに、この形式は矛盾しているように思える。そしてこの本では、要約すると、「ここでの過去完了は「すっかり・完全に終わる(完了)」のニュアンスを強調している」と言った形で説明されている(beforeに限らず副詞節中で使われる過去完了は同じようなニュアンスをもつと書かれている)。

 

以下ではこの構文についていくつか補足しておく。まずは具体例から。

 

(1)He went out before I had finished my sentence. 

 

これは日本語にすれば「僕が最後まで言い切らないうちに彼は出て行ってしまった。」と言った感じになる。確かにここでも「最後まで言い切る」という完了のニュアンスが出ている。

 

この構文について柏野 (2012)は3タイプに分類していて、そのうち最も頻繁に使われるタイプは「意外性」を表すタイプだという。

 

(2)Before I'd parked my car, Berta was opening the front door.

 

一般的には「完全に止まってからドアを開ける」という想定があるため、それが破られた、という「意外性」を過去完了形が表していると述べられている。この意外性はevenやcouldなどを用いて表現されることもある。

 

(3)Before Melanie could reply, Star walked out.

 

この文は「メラニーが返事もしないうちにスターは出て行ってしまった。」と訳されている。普通であれば返事くらい待ってから出ていくのに、という「意外性」が表現されている。

 

<X before Y>という構文では、「Yの前にX」という意味が表されるが、結局Yは行われたのかどうか、という点(実現性)が問題になることがある。(4)は実現した場合、(5)は実現しない場合を表す。(4)の例は吉良 (2018)から。

 

(4)John slept with his wife before he had got married.

(5)The letter was destroyed before I had read it.

 

これらの例では文脈上「実現/非実現」がはっきりしている。なお、(5)のような「消滅」などの意味を表す動詞の場合、過去形が使われていても(常識的に)「非実現」の解釈となる。結局、文脈次第ということだと思う。

 

(6)He died before he finished his thesis.

 

なお、どうでもいいが、(4)の例について、過去完了形が使われているが、ここには「意外性」は全くない気がする。むしろsleep withしてなかったら「意外」な気が・・・。

 

それはさておき、吉良 (2018)ではbefore節中に過去完了形が使われる構文の意味合いとして、先行研究を引きながら、次のように書いている。

 

(7)出来事Yが先に起こるのが通常であるが、通常とは異なり出来事Xが、突然、予期せず早く起こった、というような、普通でない出来事を表す。

 

ここからも「意外性」というのがキーワードらしいことは伝わってくる。実際の例を見ていると、単純に「意外」というよりも、そこから派生して「非難」とか「後悔」とか「残念」といった気持ちが込められているケースが多いように感じる。要するに、何かしらの主観的・感情的なニュアンスを持っているのだと思う。(4)もそういった点から考えれば過去完了形が使われるべくして使われたと言えるかもしれない。

 

(8)*John wrote a novel before he had died.

 

この例は容認されないようだ。それは、「死ぬ前に本を書いた」という内容が当たり前のことすぎて伝達価値がないかららしい。まあこれも、「意外性」が全くないし、(7)の説明からしても確かに無理そう。

 

(9)The executioners buried John before he had died.

 

同じdieという動詞が使われていてもこの例が可能なのは、普通「死んでから埋める」という順序なので、それに反しているからと説明できる。

 

この構文でYに可能な動詞は「完了の強調」なのであるから完了のニュアンスを表しうるもの、つまり(始点か)終点を含むものでなくてはいけない。要するにいわゆる状態動詞は基本的に不可能ということになる。次の対比は面白い。<be PP>を動詞的受身と考えれば(11)が許容されるということなのだろう。

 

(10)*Why did you turn the tap off before the bucket had been full?

(11)Why did you turn the tap off before the bucket had been filled?

 

何点か気になる点をメモしてきたが、しかし、いったいなぜ「完了の強調」をすることで「意外性」などの意味合いが強く出るのかはよく分からない。(7)が正しいとすれば、「本来であれば<Y⇒X>という時間関係が「普通」だ」、という前提があることになる。この「普通ならば」起こりえる方の時間設定を「過去完了」で表しているのかな、なんてふと思ったが、気のせいかもしれない。

 

ところで、副詞節と「意外性」という組み合わせでふと思い浮かぶ構文には、次のようなwhenの用法がある。

 

(12)He was about to pass it to her when his movement was suddenly arrested.

 

こうした構文は「逆転when」と呼ばれたり、「語りのwhen」と呼ばれたりする。「逆転」というのは、<X when Y>という形式があったとき、一般に「Yの時X」というような意味合いになり、whenは時間設定的ないわば背景的な役割をするのに対し、(12)のような例ではむしろ主節の方が背景になっていることを表している(訳すと「Xし(ようとし)ていたら、Y」と言った感じになる)。

 

まず、この構文では主節に使われる表現は①be ing②be about to③過去完了などに限られる。そしてこの構文の特徴については様々に先行研究で言われているが、ここでは二点ほど挙げておきたい。

 

(13)Juanita was reading a story to Estela, when a knock sounded on the apartment door. Visitors at any time were rare, almost unheard of this late.

 

ここのwhenは逆転whenと考えられるが、その後に続く二文目はwhen節で導入された内容を受けたものになっている。このように、このタイプのwhenでは後続文脈で内容が続かなくてはいけない。

 

(14)She was lecturing to her class when suddenly the door burst open.

 

これまでの例もそうだが、(14)でも主節の段階では予想はしていなかった内容がwhen節で起きている。つまり、「意外性」が表現されていると考えられる。さらに、多くのケースでは、主節での行為がwhen節で表される内容によって阻止されたり((12)を参照)、一時停止することになる。こうしたことを考えると、(15)が自然なのに対し、(16)が微妙であることがよく分かる。when節が主節の主語と同じ主語の意図的な行為を表しているため、「意外性・予想外」という内容と合わないためだ。

 

(15)I was about to go to my office, when my wife called me.

(16)??I was about to go to my office, when I called my wife.

 

さて、あまり意識したことはなかったが、受験でも定番の次のような構文も同じタイプと考えられるらしい。

 

(17)Scarcely had I come into the room when / before the phone began to ring.

 

「~するやいなや・・・する」の構文で、確かに言われてみると、これまでの逆転whenと同類の表現であることが分かる。すると、この構文でも(16)と同じような内容を取れば不自然な文になることが予測されるが、事実そうである。

 

(18)??Scarcely had I found a public telephone when / before I phoned home.

 

書き換えの関係で教えられることが多いと思われる表現にAs soon asがあるが、これを使えば(18)の内容は全く適格である。

 

なお、この構文では必ずwhen節が主節の後ろに置かれるが、同じように必ず主節の後ろに置かれるwhen節には(19)のようなものがある。一般に「譲歩」と言われているものだろう。

 

(19)Why settle for 'Three Blind Mice' when you can play the 'Gloria'? (京大)

 

自分ではこのようなタイプはいつも決まって「~だというのに」という日本語を当てている気がする。個人的な感覚で言えば、このタイプのwhenは(19)のようにしばしばwhyと共起し、「非難」したり「諭し」たりする場合に使われる気がする。もう一例あげておく。

 

(20)And why limit yourself to working with people within convenient driving distance when, just as conveniently, you can work with the most knowledgeable people in the entire world? (宇都宮大)

 

 

 

参考

赤塚・坪本 (1998)『モダリティと発話行為』研究社.

柏野健次 (2012) 『英語語法詳解』三省堂.

吉良文孝 (2018) 『ことばを彩る1 テンス・アスペクト』研究社.

岡田育恵 (2007)『英語表現の形式における矛盾と伝達効果』英宝社.