英語の勉強メモ

英文中で出会った表現のメモや、英語に関わる文献のメモです。

描写構文(2)

描写構文について追加。

昨日の記事で書いたように一般に描写述語は「一時的状態」を述べるものでなくてはならず(ステージレベル述語)、恒常的な状態を表すもの(個体レベル述語)ではいけないと言われているが、久野・高見(2018)ではその定式化に反対している。

 

(1)He bought the car cheap.

(2)I like my boyfriend plump.

 

この二文は共に適格である。彼らの判断では、(1)のcheapが一時的状態と言っていいのか、というと微妙だし、(2)のplumpについていえば、人の永続的特徴を述べる述語だという。これらが正しい英文ということになると、一般に言われる描写述語についての「一時的・恒常的」による原則は成り立たないことになる。(1)と(2)は共に目的語描写述語だが、(3)のように主語描写述語でも同じである。

(3)He was born left-handed.

ここでのleft-handedは間違いなく個体レベル述語とこれまで言われてきたものに分類される。

 

さて、こうした実態を説明するために、彼らは(4)のような制約を提案している。

 

(4)目的語描写述語構文に課される意味的制約:目的語描写述語構文は、目的語描写述語が、主語にとって選択可能で、比較対照される選択肢を想起させる場合に適格となる(P16)。

(5)主語描写述語構文に課される意味的制約:主語描写述語構文は、主語描写述語が、比較対照される主語の状態に関する選択肢を想起させる場合に適格となる(P22)。

 

例えば、(1)の場合、「車を買う」時に、高い値段、安い値段、ほどほどの値段、という風に比較対象となる選択肢が自然と想起され、(2)の場合、彼氏候補を考えたときに、太った人、痩せてる人、がりがりの人、という風に選択肢が思い浮かべられる。(3)では生まれるときに右利きか、左利きか、という選択肢が同様にある。(4)の「主語にとって選択可能で」というのは、(1)では「買う」人にその選択権があり、(2)でも同様であるが、一方の(3)の場合、選択権が主語自身にはない。もちろん、主語描写述語の場合も、(6)のように主語自身に選択権があると思われる例はいくらでもある。

(6)John left the party stuffed.

 

しかし、久野・高見(2018)の観察では、目的語描写述語の場合は「選択権が主語にないとダメ」らしい。

(7)I bought my iPhone brand-new.

(8)*I lost my iPhone brand-new.

 

彼らによれば「買う」場合は選択できるが、「なくす」場合は選択不可なため、(8)は容認されない、ということらしい。

 

 

描写述語の意味について考えてみると、どうも副詞に似ている気がして仕方がない。

(9)He left the room angry.

(10)He left the room angrily.

上記の文では、形容詞(描写述語)と副詞がそれぞれ使われているが、大体同じ意味と解釈できる。ただし、厳密には、(9)の場合は描写述語なので、Heが実際に怒っていることを表すが、(10)の場合は「怒っているようだ」という風に判断できれば、実際に怒っているかどうかはどちらでも良い。

(ただ、数名のネイティブスピーカーに(9)と(10)で意味が違うか聞いたところ、大した違いは感じられない、と答えるので、まあ実際微々たるものなのかもしれない。)

また、叙述する相手の選択で異なった性質を示す。

(11)John left Mary sad.

(12)John left Mary sadly.

sadを用いた(11)では、「悲しい」のはJohnという解釈もMaryという解釈も可能であるが、sadlyの(12)では「悲しい」のはJohnの解釈しかない。

 

話は違うが、この対比で思い出されるのはbe受身文とget受身文の対比である。

(13)Mary was seduced by John intentionally.

(14)Mary was seduced intentionally.

この例において、intentionallyという副詞が説明するのはいずれもMaryではない。(13)ではJohnを、(14)では文中に現れない動作主をそれぞれ説明している。一方、get受身だと様子が変わる。

(15)Mary got shot by John deliberately.

この場合、deliberatelyが説明するのはJohnではなくMaryの態度である。

 

描写構文に話を戻す。描写述語は副詞と意味的に似ているという点に関して、実際に副詞として分析する研究もある。その中で、副詞と考えるに足る、証拠として挙げられているもので分かりやすいものを一つ挙げると、純粋な副詞と共起できる、という点が挙げられる。

(16)He looked at me composedly, not angry, as I had feared.

ただし、共起できない場合もあり、一概に「副詞」とは言えなそうである。

 

 

参考

影山太郎 編 (2009) 『形容詞・副詞の意味と構文』大修館書店.

Maruta, T (1995) "The Semantics of Depictives," English Linguistics 12.

久野・高見 (2018) 『謎解きの英文法 形容詞』くろしお出版